美容師免許を取得したら美容院で働こうと考えている人が多いと思いますが、美容師免許が活かせる場所は美容院だけではありません。超高齢化社会に突入した日本では、介護や福祉に関する仕事や求人が増加。美容師の仕事も例外ではないのです。
では、実際に介護や福祉の現場での美容師の仕事とはどういったものなのでしょう? 今回は介護・福祉の現場で活躍する「福祉美容師」や「訪問美容師」の仕事を大解剖! 仕事内容だけでなく、お給料事情や休日などの具体的な内容もご紹介していきます。
福祉美容師・訪問美容師ってどんな仕事?1日の流れもご紹介
メインとなる仕事はもちろん、ヘアカット! 美容院での仕事と同じように、お客様のヘアカットやシャンプー、スタイリングを行います。一般的な美容師の仕事との大きな違いは、施術をするお客様が、高齢者の方や障害を持った方、妊婦さんであるということ。そのため、身体に不自由を抱えているケースが少なくなく、中には自力で椅子に座れないお客様や、希望を自分の言葉で伝えられない場合も。このように一人ひとり異なる事情を抱えたお客様に合わせて臨機応変な対応ができることが、福祉美容師に求められます。
また、お客様自身で美容院に来てもらうのはでなく、お客様のご自宅や、入居している施設へ訪問して施術するという点も大きな特徴。そのため、福祉美容師は「訪問美容師」と呼ばれることもあるのです。
一日の仕事の流れは?
実際に訪問美容師はどのような働き方をしているのか、一日のタイムスケジュール例をご紹介します。
- 9:30 勤務先となる施設に到着!
- 10:00 施設の方に挨拶をし、施術開始
- 12:00 休憩
- 13:00 午後の施術
- 15:00 片付け、カルテ記入
- 16:00 帰宅
一度事務所に出勤してから先輩スタッフと同行して向かうこともありますが、自宅から車で直行する場合も多くあります。
まずは受付の方や現場の担当者の方に挨拶をしてから、実際に利用者様の施術を開始します!色々なお話をしながら、大体午前中に3~4名のカットをします。
施設の昼食時間に合わせて休憩。勤務先にもよりますが、基本的にはしっかり1時間の休憩を取れることがほとんど。
休憩が終わったら、午後の施術開始!午後も午前中と同様に、3~4名のカットを担当します。
施術が終わった後は、綺麗に掃除をします。また、その日に担当した方のカルテを記入し、受付に提出をして帰ります。
施設を出た後は、事務所に戻るかそのまま自宅に直帰をします。
施設の時間に合わせて行動するため、基本的に残業はほとんどありません。また、出勤はっ平日のみで土日はお休みという場合も多くあります。
美容師=夜遅くまで仕事、というイメージがありますが、その点は福祉美容師とは異なるポイントと言えるでしょう。
福祉美容師・訪問美容師に求められる“知識”と“技術”
福祉・介護の現場で必要な資格は、基本的に美容師の資格だけ。ただし、福祉美容師や訪問美容師としての仕事をこなすためには、専門の知識やスキルが必要です。
ただ髪を切るだけでなく移動のサポートやメンタル面でのケアなどが求められることもあり、美容専門学校で学んだ知識以外の知識が求められる場面も多々あります。
これらのスキルを取得するための講座や講習によっては、「福祉理美容師」(※取得する機関によって名前に違いあり)の資格が付与される場合もあるので、せっかくなら資格取得を目指して勉強をしていきましょう。
「福祉理美容師」の資格はどうやって取得するの?
「福祉理美容師」(※取得する機関によって名前に違いあり)の資格を取るには、養成講座を受けるというパターンが一般的。ここでは資格講座を行っている2つの団体をご紹介します。
認証NPO法人 日本理美容福祉協会「福祉理美容士養成講座」
自宅学習と2日間の実技講習を受けることで資格が取得できます。まずはテキストを見ながら自宅学習し、レポートを提出。自宅学習が合格とみなされた人は講義と実技講習を受講して終了、試験などは特にないので養成講座終了をもって「認定福祉美容介護師」の資格が与えられます。
NPO 全国介護理美容福祉協会「福祉理美容師養成コース」
4日間で全28時間の講習のなかで、福祉の現場でのヘアカットについての注意点から、高齢者・障がい者の方のための訪問理美容の理論と技術をマスターできます。また実際に訪問理美容を行うための準備や手続きなどの実務面でのサポートもしてもらえるので、安心です。
各講座や講習を受けるための条件
「福祉理美容師」の資格を得るためには講座や講習を受講することが必要なのですが、これらの講習を受けるにも条件があります。それは“美容師資格”を持っていること。そのため訪問美容師や福祉美容士になりたい人は、まずは美容師資格を取得していなければなりません。
「訪問理美容師」の資格はどうやって取得するの?
訪問理美容師の資格を取得する際は、各団体が開催している講座を受講する必要があります。ここでいくつかの講座をご紹介。
一般社団法人 日本訪問理美容推進協会「ヘアメイクセラピスト養成講座」
この養成講座は、高齢者や障害者のお客様を抱えている美容師や、サロン勤めをしながら訪問理美容で将来的に独立を考えている理美容師に向けたもの。1日の研修で、訪問理美容サービスの基本技術ともてなし、寝たきりのお客様への安全な理美容技術とバリカン応用技術、介護や医療の基礎知識と介助の基本などを学びます。なお講座当日までに指定の事前学習教材を使っての学習と、ペーパーテストの解答を済ませておく必要があり、受講終了後に資格認定されます。
一般社団法人 日本訪問福祉理美容協会「訪問福祉理容師」資格
高齢者とのコミュニケーションや消毒、感染症についての知識なども学ぶことができるのがこの講座。新たに訪問理美容を始める人のために、福祉・介護・医療等の基礎知識から、訪問理美容の準備、道具の取り扱い、施術時の注意まで幅広く学習することができます。特に試験は無く、講義終了後に訪問美容の正しい知識を身につけたスペシャリストであることを証明する「訪問福祉理美容師」認定マークを受け取ります。
NPO法人 全国福祉理美容師養成協会「ふくりび」
合宿型の講座として、2日間にわたって技術講習を6時間、福祉理美容マネジメントを5時間ほど学びます。技術講習ではお客様との接遇コミュニケーションや訪問理美容に必要なカット技術を習得。訪問理美容の現場などでしっかりと技術実習をする点が特徴です。また、寝たきりのお客様へのベット上でのカット技法や認知症の方へのカウンセリング対応まで学ぶことが可能。「福祉理美容マネジメント」では、訪問理美容師の独立者に向けての事業計画作成アドバイスや効果的な宣伝や営業方法まで学べるので、独立開業者にとっては嬉しい内容ですね。
勤務時間やお給料はどうなの?
福祉美容師の仕事内容について分かったところで、次は実際に働いた場合を見ていきましょう! お給料や休日など、気になる労働条件をご紹介します。
歩合などがないので給料自体は通常のサロンで働く美容師とそこまで変わらないですが、拘束時間や休日数などの待遇面を含めると通常の美容師より好条件で働けることも多くあります。
給料
雇用形態によって大きく異なりますが、完全歩合制のサロンの場合で時給に換算すると1,000円から1,800円程度。給料制のサロンの正社員として働く場合は、都内の平均で18万円から35万円ほどで、働く場所やスキル、経験年数が給料に反映されることもあります。
勤務時間
1日の実働時間は、平均して5~6時間程度といったところ。午前中だけの勤務や午後だけの勤務など、フルタイム以外の働き方もできるのが福祉美容師の特徴です。
勤務時間が長く、お休みも取れないほど忙しいこともある一般的な美容院と比べると、福祉美容師・訪問美容師は比較的スケジュールにゆとりをもって働けます。
通常の美容室と違って飛び込みのお客様が入ることもないので、予約が入っていない場合は早上がりをしたりゆったり出勤ができたりすることも。1日のスケジュールを朝の内に把握して働けるというのも嬉しいポイントですね。
休日
正社員の場合だと、週休2日制の会社が多数。土日・祝日が休みという場合も多く、サロンによってはシフト制で週1日の出勤からOK・夕方までの出勤もOK・午前中だけの出勤もOKなど時間の融通を利かせて働けることも多々あるので、自分が働きたいスタイルに合わせて選んでみても良いかもしれません。平日だけ働きたいけど美容師の仕事は続けたい、という方にもおすすめの働き方です。
また、年末年始やお盆などの休暇中は施設もお休みになることが多いので、通常の美容師では考えられないような連休を取得することもできるのです。海外旅行に行ったり実家に帰省したり友人と遊びに出かけたりと、美容業界で働きながらもお休みを楽しめるのは嬉しいですよね。
「連休はいらないから働きたい!」という場合には、長期休暇の間だけ他の美容室でのアルバイトをしても良いですね。
福祉美容師の人はどこでヘアカットするの?
福祉美容師や訪問美容師として働く場合、美容室でヘアカットなどを行うことは珍しく、基本的には施術を受ける方がいる場所を訪問する、という形になります。施術の場所は主に3つ。3つの場所すべてに訪問する福祉美容師の人もいれば、どれかひとつの場所での施術を専門的に行う美容師の人もいるなど、さまざまです。
- 病院:長期入院されている方のために病院へ赴き、施術を行います。
- 施設:高齢者施設や障がい者施設などに入居し、生活している人の施術をするために、施設を訪問します。
- 自宅訪問:自宅で介護を受けられている高齢者や寝たきりの方、障害をお持ちの方のために、直接ご自宅を訪問して施術します。
福祉美容師・訪問美容師ならではの道具・アイテムはあるの?
普段サロンワークに慣れている美容師の方でも、訪問美容の場合、どんな道具が必要かは、意外と知られていません。訪問美容は、通常のサロン内に常備しているような道具をお客様の自宅や施設に持ち込んで施術を行います。忘れ物をしないためにも、必要な道具について予めリストを作っておくと便利です。訪問美容に欠かせない道具をご紹介します。
定番アイテム
シザー/コーム
言うまでもなく、これは訪問美容師にとっての必需品。忘れてしまっても、他のスタッフのものを借りたりできないので必ず出勤前にチェックをするようにしましょう!サロンのように移動式のワゴンもないので、シザーケースの携帯も忘れずに。
クロス
サロンだと常備されているクロスですが、訪問美容の場合は勤務先に用意されていないことがほとんど。そのため、自分で購入して持参するか会社から支給されるものを持参する必要があります。
移動式シャンプー台
ハサミやコームの次に、欠かせないのが移動シャンプーです。なかなか一般的に普及していない者ですので、高価な割に、作りがイマイチのものも多いのが現状です。せっかく購入するのであれば、なるべく納得のいくオシャレなものを選びたいですよね。
キャリーケース
これも、福祉美容師ならではのアイテム。シザーやクロスを持ち歩いて移動しなくてはいけないので、それらが全て入るような大きめのボストンバッグやキャリーケースが必要になります。シザーを傷つけないためには、バッグよりもプラスチックでできたキャリーケースの方が好ましいですね。
忘れがちなアイテム
パーマ用のアイテム
スティックピン、小さいパーマゴム、ヘッドキャップ、ターバン用ゴムなど、細かいアイテムは忘れがちですので、しっかりとバッグの中身を確認しましょう。
ヘアカラー用のアイテム
耳キャップ、カラー用リムーバーとコットン、フェイスクリーム、メガネカバーも現場で必要になった際、なかなか代用が利かない道具です。忘れないようにしましょう。
あると便利なアイテム
必要不可欠な基本アイテム以外にも、吸い取り式バリカン、美容道具便利収納バッグ、美容ワゴン、パーマ&ヘアカラースタンドなどの美容師ならではのアイテムはもちろん、落ちた髪の毛を掃除するためのクリーナーやほうき、新聞紙などのアイテムもあると便利ですね。
また、勤務地によってはスリッパや着替えが必要になる場合もあるので、万が一を考えて揃えておくようにしましょう。
もちろんこれらすべてを購入する必要はありませんが、お客様の体への負担を考えたり、施術のスピードアップを図ったり、少しずつ自分の仕事道具を揃えて行くのも訪問美容師の醍醐味です。
普段のサロンで使っているものでも、福祉美容師の場合は基本的に勤務先で何も用意されていないことが多いので、タオルやヘアゴムなどの基本的なアイテムもバッグの中に入れておくと良いですね。
それらの備品は、自分で一式購入する場合もあれば会社でまとめて購入してくれる場合や先輩から譲り受ける場合もあるので、働く前に事前に確認をしておくようにしましょう。
美容師資格を取得してから福祉美容師・訪問美容師になるまでの流れ
では、実際に福祉美容師や訪問美容師になるためにはどのようなステップをふめばいいのでしょうか。一般的な方法は以下の2つですが、美容師としてのブランクを経て、改めて福祉美容師として活躍する人もいるようです。
美容師資格取得→「福祉理美容師」の資格を取得→サロン就職(訪問美容専門)
はじめから福祉美容師を目指す場合、まずは美容師資格を取得します。その後、「福祉理美容師」の資格を取って、訪問美容専門のサロンに就職。サロンで具体的なスキルを身につけるという方法です。
美容師資格取得→サロン就職→「福祉理美容師」の資格を取得→サロン就職(訪問美容専門)
こちらは普通のサロンに就職した後、キャリアアップのためや年齢の変化によって、福祉美容師・訪問美容師に関心を持ち、転職した場合の流れです。普通のサロンから資格を取得し、訪問美容専門のサロンへ入り直す形ですね。
福祉美容師に向いている人の性格、4タイプ
福祉美容師が普段接する方たちは、通常のサロンで接するお客様とは異なります。体に何かしら障害を抱えている方や高齢の方が多いので、福祉美容師として働くのに向いている性格も少し異なってくるのです。
落ち着いていて、せっかちではない人
高齢者の方だと、どうしても話し方がゆっくりだったり移動するのに時間が掛かったりします。そんな時に「早くしてください!」などと急かすことなく、同じペースで話すことができることが何より大切。福祉美容の業界では、落ち着いた話し方や接し方の美容師は好意を持ってもらいやすいのです。
いつも笑顔の人
通常の美容室だと、笑顔が少なくて物静かな美容師でも「クールでかっこいい!」と思ってもらえますが、福祉美容師の場合はそうではありません。無口で不愛想な美容師はあまり好まれず、いつもにこにこと笑っている方が親しまれやすい傾向にあります。
あまり会話が得意でない場合も、しっかりと目を見て相槌を打ったり、ずっと笑顔で接することで安心してもらえますよ。
周囲に気が使える人
カットをしている時はどうしても自分の世界に入り込んで、周囲が目に入らなくなる。そんな人は、あまり福祉美容師向きとは言えません。施術をしている時にも、周りの利用者さんや患者さんが困っていないか、転んでしまったりしていないか、広い視野を持っていることが大切なのです。
気配り上手な性格の人は、福祉美容師向きと言えるでしょう。
聞き上手な人
通常の美容室だと、初めて会ったお客様にも恋愛の事や仕事の事などいろいろな質問をしながら会話を展開していきますよね。その途中で、自分の経験談やアドバイスをしていくことも多いはず。
ですが、福祉美容師の場合はアドバイスをしたり話してくれた内容を否定したりすることはNG。「ただ聞いて欲しい!」と思って話している方も多いので、それを否定して「もうこの美容師さんには話したくないな。」と思われないように気を付けましょう。話し上手よりも聞き上手でいること、それが福祉美容師として長く働くコツですよ。
福祉美容師・訪問美容師の今後の需要
2025年には65歳以上の人口が30%以上を超えると言われている日本。そのため、介護や福祉に関する仕事は増加傾向にあります。そんな中で、福祉美容師や訪問美容師の仕事に対する注目度も上昇中。高齢化に比例して高齢者用のグループホームや有料老人ホームも増加しつづけています。施設に入所している高齢者の中には車イス生活を送っていたり、障害を抱えている方も多く、福祉美容師や訪問美容師の活躍の場は確実に広がっているにも関わらず、福祉美容師や訪問美容師の数が足りていないのが現実です。
これからの時代、ますます需要が増えてくる福祉美容師・訪問美容師という仕事。また、美容師だけではなくネイルやエステなどの訪問美容を展開している企業も増えてきています。
自宅や施設から中々外に出られない人のために、オシャレを楽しむお手伝いができる、やりがいのある仕事、それが福祉美容の働き方です。美容師資格を活かした介護・福祉の仕事がしたいと思っている人は、福祉美容師・訪問美容師を視野に入れてはいかがですか?